キャリートレードの説明

by Andrew McGuinness     7月 16, 2019

キャリートレードの歴史

1990年代まで、大手ヘッジファンドは新興市場の通貨で巨額の富を築いていました。その当時、キャリートレードという言葉は、金融界の大部分にほとんど知られていませんでした。しかし、不況と格闘していた日本銀行が金利を低くし、ゼロ金利政策(ZIRP)を施行しました。世界中で多くのトレーダーたちが、日本のような低金利の国と、金利およそ5%のオーストラリアや米国のような国の間の、大きな金利格差に機会を見たのです。当時、キャリートレードを行うのは国債や他の確定利付資産を運用する投資家だけにほぼ限られていました。

20年後、連邦準備金がフェデラル・ファンド・レート(FFレート)をゼロ近くまで下げ、そのことで米ドルに対する円キャリートレードは一時停止となりました。しかし、それでも日本円の借り入れ、まだ豪ドル、トルコリラ、ブラジルレアルなどといった高金利通貨が購入されました。当時の豪ドルの運用益は4.5%でした。

2012年後半、日本の首相の安倍晋三が日本経済の成長、低金利政策、貿易・投資の自由化を打ち出すと、円キャリートレードは持ち直しました。2010年代の最初の3年間で、円キャリートレードは70%も上昇したのです。しかし2013年、日本経済は再び縮小しました。日銀が新たな量的緩和を発表し、それによって日本円は2014年には7年ぶりの低水準となりました。今日でも、日銀は低金利と量的緩和措置をとっているにも関わらず、日本円を低金利続けようと奮闘しています。このときは、誰でもキャリートレードで成功したわけではありませんでした。2013年、140億ドル以上を管理していたアメリカのヘッジファンドが、経済新興国の金利がゼロになったため、破綻しました。加えて、経済成長を促進しようとした多くの中央銀行が、暗黙のうちに自国通貨安に誘導しようとしたため、長期傾向をつかむのが難しくなりました。

2016年、日銀はマイナス金利を導入しました。つまり、口座預金者は預金額に対して、一定の割合の支払いが課せられます。ここで採用されているロジックは、企業に融資せず、預金を貯めこんでいる銀行を罰することです。-0.10%金利で、日銀は商業銀行の一部預金に対して、0.10%の手数料を課します。理論上は、商業銀行の融資を奨励し、その結果、国内消費と事業投資が活性化します。

 日本円は2017年現在でも、キャリートレードで好まれる通貨です。他国はタカ派的な金利政策をとっているのに対し、日銀は低金利政策を続けているからです。

ここでいう金利とは?

 中央銀行が商業銀行に資金を貸し出すとき、この資金に課せられる手数料を政策金利または金利といいます。これは金融政策における中央銀行の武器のうち最も効果的な手段の一つです。金利変化は経済と金融部門への通貨供給量をコントロールし、インフレを制御して、その国の為替レートを安定させます。金利が変わるといつでも、株式市場、外国為替市場、国の経済に波及効果が生じます。そしてそれを大手投資家とヘッジファンドは注目しているのです。

キャリートレードとは?

キャリートレードとは、投資家がある低金利の通貨を借り、高金利がついた別の通貨または資産(通常は国債)を購入し、利益が出るまで保有する(キャリー)戦略のことです。使用レバレッジにもよりますが、二国通貨の金利差がかなり大きい場合もあります。

外国為替市場では、キャリートレードはシンプルに、高金利通貨では買い持ち(ロング)で、同時に低金利通貨では売り持ち(ショート)です。決済時、トレーダーは先物レートと直物レートの差額を受け取ります。これは外貨スワップとも呼ばれています。

キャリートレードのしくみは?

経済理論によれば、国家間の金利差利用をベースにした投資戦略は、予測可能な利益をもたらすはずがありません。言い換えれば、うまくいくはずがありません。結局、ある国が高金利なら、何かがおかしいのです。つまり、経済基礎が弱いか、高インフレです。しかし実際には、投資家はかなりの利益を出すため、経済基礎を見て見ぬふりをする覚悟ができています。こうした投資家の存在が需要を増し、高金利通貨の通貨高を呼んでいます。関与する投資家が増えれば増えるほど、通貨の価格が跳ね上がり、その国の経済に害を与えます。それが起こると中央銀行が介入して金利を下げ、その結果、その通貨に対する需要も低下します。また、次に来るものは通常、キャリートレードの巻き戻し(アンワインド)です。

では、トレーダーはどのように保有(キャリー)するのか?

一例をあげます。日本円がゼロに近い金利で、対する米ドルが1.25%だとしましょう。この場合、トレーダーはこの二国間の金利差1.25%の利益を期待します。キャリートレード戦略プロセスは下記の通りです。

· まずトレーダーは日本円を借り、米ドルに換えます。現為替レートは1ドル112.5円で、トレーダーは1千万円を借り、88,888ドル (10,000,000/112.5 = $88,888)を購入します。

· トレーダーは、そのドルで米国金利払いの証券」(たとえば国債)を買います。1年間そのポジションを保持すれば、そのトレーダーは1,111ドル ($88,888 x 1.25%= $1,111)の金利を得ることになります。

· さて、トレーダーは1千万円を返さねばなりません。為替レートが1年間、そのままだったとすると、トレーダーは1.25%の利益を得ました。しかし、もし円安になれば、利益はさらに大きくなり、逆もまた然りです。円高になれば、その取引の稼ぎは少なくなり、円を買うためにドルを売れば、損失さえ発生するでしょう。

これは全てレバレッジ1:1の場合です。しかし市場ではレバレッジが最大500:1なので、リターンはかなり魅力的になる可能性があります。

なぜ高金利の国と、低金利の国があるのか?

Robert Ready、Nikolai Roussanov、 Colin Wardによる研究論文Commodity Trade and the Carry Trade: A Tale of Two Countriesでは、高金利なコモディティ輸出国(オーストラリアやニュージーランドなど)と、高価な製品を輸出する生活必需品の輸入国(日本やスイスなど)とを比較した現象を研究しました。その論文によれば、コモディティと通貨の両方のキャリートレードをしている資金管理者は、特に通貨価格変動と、コモディティ・通貨間の相互関係のために、高リスクを冒しています。しかし平均的には、変動が金利差を解消することは稀です。

過去30年間、典型的なキャリートレード戦略は、歴史的に高金利の豪ドル、ニュージーランドドルと、低金利の日本円およびスイスフランを使うものです。これらの国々の生産と国際貿易の構造は異なります。日本とスイスは一次産品を輸入し、高品質なハイテク輸出製品にします。一方オーストラリアやニュージーランドは、鉄鉱石や天然ガスなどの一次産品を輸出します。この論文点は、国の経済基盤の違いが、歴史的な金利の違いを説明してくれるのだろうか、という疑問を主に取り上げています。この金利差は、リスクプレミアムとして知られています。

コモディティ輸出国の通貨はコモディティ通貨(資源国通貨とも呼ばれます)として知られ、為替レートは資源価格に合わせて上下します。

この論文の執筆者は、投資家にとって金融市場でのコモディティ通貨は、日本やスイスのような製品輸出国通貨よりも、より高いリスクを負うと考えられる理由がある、と主張しています。日本やスイスのような国々の通貨は、転じてセーフヘブン(安全な避難先)通貨と呼ばれています。

 世界経済では、世界経済の拡大時にはコモディティ価格が上昇し、経済危機の時には下落します。これが、こうした通貨がリスキーだと考えられている一因です。反対に、洗練された製品を輸出する日本やスイスのような通貨は、景気後退で好まれ、基本的に世界経済状況に対してヘッジ取引のような動きをします。

キャリートレードは、世界経済にどう影響を及ぼすのか?

今日では、日本やアメリカ、さらにはEUなどの通貨借り入れが行われ、通貨に高利回りの金利がついている新興国市場に投資されています。たとえばロシアは8.25%、ブラジルは7.50%、インドは6.00%の金利です。こうした国々は全て、投資先として魅力的なオプションです。しかし負債が一定のレベルに達すると、その国は債務利息を支払うことが難しくなり、ポジションが大きく巻き戻します。何億ものドルがその国を去り、市場危機や世界規模の相場崩壊さえ招きかねない下落を引き起こします。新興市場キャリートレードは、推定何兆ドルにもなる規模です。しかし新興市場とは違い、日本やアメリカのような先進国のより大きな経済では、通貨量が巨額であるため、キャリートレードの破壊的な性質に対する一定の免疫力があります。

各国の中央銀行

金利

スイス国立銀行(Swiss National Bank (SNB)

-0.75%

日本銀行(Bank of Japan (BOJ)

-0.10%

欧州中央銀行(European Central Bank (ECB)

0.00%

イングランド銀行(Bank of England (BOE)

0.50%

カナダ銀行(Bank of Canada (BOC)

1.00%

連邦準備制度(Federal Reserve (FED)

1.25%

オーストラリア準備銀行(Reserve Bank of Australia (RBA)

1.50%

ニュージーランド準備銀行(Reserve Bank of New Zealand (RBNZ)

1.75%

中国人民銀行(People's Bank of China (PBOC)

4.35%

インド準備銀行(Reserve Bank of India (RBI)

6.00%

ブラジル中央銀行(Central Bank of Brazil (BCB)

7.50%

ロシア連邦中央銀行(Central Bank of the Russian Federation (CBR)

8.25%

キャリートレードをするベストなタイミングは?

  • キャリートレードは多くの場合、金利に影響されるので、利益を上げるベストな環境は、中央銀行が金利を上げる時、または上げようとする時です。この場合は、受動的に生み出される金利にだけでなく、通貨騰貴(とうき)も魅力的です。
  • 中央銀行が金利を上げるとき、小規模トレーダー、大規模投資家とヘッジファンドはそれに気づき、需要の増加により価値を上げている特定の通貨資金を動かす傾向があります。
  • 変動が少ない場合、通貨変動によって利益が相殺されないため、キャリートレードは威力を発揮します。

キャリートレードで失敗するタイミングは?

  • もし中央銀行が金利を下げるか、引き下げを計画していれば、トレーダーや投資家たちはその通貨を売却し、高い金利のついた通貨に資産を移します。
  • 輸出に力を入れる国(オーストラリアやニュージーランドなど)では、過度の通貨高になれば、中央銀行は反応しないわけにはいかなくなり、金利上昇をせき止めさせる可能性があります。中央銀行が通貨高または通貨安に干渉すると、キャリートレードの利益に影響が出かねません。
  • ポジションが埋め尽くされて相互に関係しあうと、巻き戻しが次にやって来るかもしれません。

キャリートレードで利益を得るベストな方法は?

キャリートレードが長期戦略であることは、疑いの余地がありません。このことから、デイトレーダーよりも投資家に向いています。毎日一時間おきに、提示価格を見なくてもいいからです。キャリートレードが実行されれば、ポジションが利益となるまで、投資家は待たなければなりません。

リターンは価値がある?

米ドルに対する8つの新興市場通貨の動きを追跡しているBloomberg Cumulative FX Carry Trade Indexによると、キャリートレードは17年中11年プラスのリターンがあり、通常、株より効率が勝っています。もちろん、先述したレバレッジを加えれば、リターンは印象的なものとなるでしょう。

世界のキャリートレードはどのくらいの規模で、外国為替レートにどう影響するのか?

国際金融取引とキャリートレードに関連した投資状態の証拠は限られています。多くの場合、監視するのが難しい通貨スワップと呼ばれる取引を通じて、こうした戦略が行われているからです。しかし国際決済銀行の二つの研究は、キャリートレードの活動規模と、外国為替レートの動向に対する影響に光を投げかけています。そういった研究の一つで、2001年から2004年、当時高金利だった豪ドルとニュージーランドドルのキャリートレード取引のために、取引高の増加が見られたことを示しています。低金利の米ドルと日本円に対して、キャリートレードがこの2国の通貨を押し上げたのです。この研究はまた、1992年から2004年のFX市場の取引高が金利差に強く関連していることを発見しました。

2つめの研究は、2005年にかなりの成長を見せ円建てのクロスボーダー請求に対して懸念を示しています。このことで、円がキャリートレードで主要貨幣として使われていることがわかります。

FXにおけるキャリートレード

外国為替市場では、通貨はペアで取引されます(トレーダーがEUR/USDで買えば、EURを買って同時にUSDを売るということです)。トレーダーは買う通貨(この場合EUR)の金利を回収し、売る通貨(この場合USD)の金利を払います。国債や他の固定資産と違って、FXでは金利はその日の終わりに支払われます。基本的にFX業者は、そのトレーダーの貸方・借方記入を一晩で行います(ニューヨーク市場が終わる22:00GMTに記入)。このFXのキャリートレードはロールオーバーと呼ばれます。

高レバレッジのおかげで、キャリートレードはFX市場でただちに人気となりました。

仮説取引として、AUD/JPY標準ロットの買いとホールドポジションを見てみると、2004年にポジションをオープン(建玉、売らずに未決済の状態)し、10年後にクローズ(決済)した場合、このようになります。

純利子

収益

外国為替レート損益

損益総額

2005

4.70%

$4,714

-$420

$4,294

2006

4.90%

$9,567

$6,040

$15,607

2007

5.30%

$14,842

$13,680

$28,522

2008

4.00%

$18,845

$17,370

$36,215

2009

3.40%

$22,271

-$17,100

$5,171

2010

3.10%

$25,392

$3,020

$28,412

2011

4.20%

$29,608

$2,345

$31,953

2012

3.80%

$33,452

-$1,764

$31,688

2013

2.40%

$35,831

$9,512

$45,343

2014

2.20%

$38,013

$12,941

$50,954

Totals

3.80%

$38,013

$12,941

$50,954

金利収益は38,013ドル、 対して外国為替レート収益は12,941ドルでした。10年間での年間収益は、基本的に19.8%でした。

キャリートレードの好機を、どのように認識するか?

ある国の経済の将来見通しが良ければ、中央銀行はインフレ対策に金利を上げるでしょう。金利が上がれば、高金利債券を狙う投資家を惹きつけ、通貨の需要が増えます。その結果、価値が上がり、より多くの収益の可能性をもたらします。しかしFXのレバレッジが高いため、トレーダーが購入して保有する場合は、通貨ペアの長期見通しは期待できるものでなければなりません。

キャリートレードの悪いタイミングを、どうやって避けるのか?

ある国の経済の将来見通しが厳しいとき、中央銀行は通貨安となるように金利を下げてデフレ対策をし、輸出を安くして、海外での競争力を高めるでしょう。低金利では、キャリートレード投資家が通貨を売るため、通貨価値がさらに下がり、投資家は他のよい投資機会を探します。

キャリートレードとリスク

FXでは、低リスク回避があるとき、キャリートレードが一番うまくいきます。トレーダーや投資家たちが頻繁にコモディティ通貨(豪ドルやニュージーランドドル)を購入し、セーフヘブン通貨(日本円やスイスフラン)に売却することになります。しかしリスク回避が大きい場合、前述のトレーダーは、資金を低金利のセーフヘブン通貨に移す傾向があります。

トレーダーが心に留めておくべき他のタイプのリスクは、為替レートのリスクです。通貨価格が上下し、キャリートレード収益を相殺してしまう可能性があるということです。損失につながることさえもありえます。リスクにさらされる資産(エクスポージャー)を制限するため、ヘッジ戦略を使うトレーダーがいるのはそのためです。

キャリートレード用に通貨ペアを選ぶ

キャリートレードに最適な通貨ペアを見つけるには、トレーダーは大きな金利差のあるものを探さなければなりません。今日の主要な通貨ペアは、ニュージーランドドル1.75%とスイスフラン-0.75%です。

次に見るのは高金利通貨にとって有利となる安定した上昇傾向で、ここではNZD/CHF買いの場合です。これは金利差だけでなく、通貨高の利益ももたらします。残念ながらこのNZD/CHFペアでは2つめの条件を満たしませんので、次の安定した通貨ペアをさがします。

今日、AUD/JPYはいまだキャリートレードに最も良いペアです。豪ドル1.50%の金利に対して日本円は-0.10%です。下記のチャートを見ると、このペアは2016年から安定して上昇しているのが分かります。

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キャリートレードは、すべてのFXトレーダーに向くのか?

残念ながら、答えはノーです。全FX業者が同じロールオーバー状況を提供するわけではありません。通貨によって手数料がちがうこともありえるので、この戦略では利益が出ないかもしれません。どの通貨ペアでもキャリートレード戦略の利用を決定する前に、一番良いロールオーバーを提供してくれる業者を見つけましょう。通常は業者取引プラットフォームに載っています。

資金管理

FXで高レバレッジを使用する可能性があるため、トレーダーの口座から多額を失う可能性はやはり高くなります。これこそ、資金管理をすべき点です。まず、トレーダーはリスク許容度を決めなければなりません。

もっとも一般的に使われる取引1件あたりのリスクは2%ですが、アグレッシブなトレーダーであれば、5%を好みます。もちろんこれは確定されたルールではなく、単なるガイドラインです。

しかし使用リスク規模を決める前に、下記を心に留めておきましょう。

損失資本額

元の資金価値に戻すために必要な収益額

25%

33%

50%

100%

75%

400%

90%

1,000%

このことは、資金管理の重要性を広い視野でとらえておくべきです。

結論

キャリートレードはヘッジファンドや大手投資家だけでなく、小規模トレーダーにも人気のある戦略です。キャリートレードはうまくいかないという経済理論の悲観的な観察にも関わらず、金融史上では何度も、正しく管理すれば利益になるということが分かっています。

留意しておくことは

  • 金利を観察する。たいていの場合、金利は外国為替レートを動かす主要要因です。
  • 長期保有通貨の方向性を決める。キャリートレードは長期戦略なので、価格変動の動向を明確につかむ必要があります。
  • 資金管理。ある通貨ペアにキャリートレード向けの良いチャンスがあれば、取引に入る前にリスク許容度を定める。
  • 利益をとるか損失を切るか。金利が変化すればすぐに中央銀行の政策が変わるので、ポジションをクローズして、良い機会がくるのを待ちましょう。





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